あとがき
ありがとうファーム アートディレクター 深谷千草
アーティストをこの街によんでみよう。そう思ったのはアーティストが私たちの日常に新しい風を吹かせてくれると確信に似た何かを感じたからだ。
2023年9月岡山芸術創造劇場ハレノワオープンに向けて2020年から市民を巻き込んだイベントが様々行われてきた。ハレノワに続く道の途中に事業所を構える私たちにも声がけをいただきミュージカル、演劇に参加する機会をもらってきた。非日常の体験を通して輝くみんなの瞳を何度も見てきた。 就労継続支援事業所ありがとうファームには約90名のメンバーが仕事をしに通っている。身体的・心理的・金銭的な理由から、外に出かけていくことが難しいため、多くのメンバーの日常は自宅と仕事場の往復が大半を占めている。
外に行けないなら、アーティストに来てもらおう。そして岡山と瀬戸内の魅力、自分と仲間たちの魅力を新しい目を持って発見していこう。そのような経緯から、アーティストが空気のように街に存在し、多様な視点の文化・芸術が街に根付き育つことを目的とした「HUB Lab. AIR」はスタートした。
ダンスの北村成美さん、舞踏の古関すまこさん、アルミニウム彫刻の小野サボコさん、画家の大平由香理さん、サイアノタイプのYOKO ICHIKAWAさん、5名のアーティストが参加してくれた。普段は表現活動をする機会のないメンバーもアーティストとの交流を通して、初めてのダンス、初めての絵、初めての素材、初めて人に語る自分の話、初めてづくしの体験をした。事業後のアンケートでは、アーティストとの対話や交流を通して自分の中に新しい発見をしたとほとんどのメンバーが答えている。 アーティストが作品を生み出すときに、歴史から紐解き今に結び付けていく工程があり、文化を継承していくことと新しいものを生み出していくことは繋がっているという大切なことも知ることが出来た。新しい出会いこそが、人も街も活性化させていくのではないだろうか。
2025年には瀬戸内国際芸術祭、大阪関西万博、岡山芸術交流が開かれる。瀬戸内の玄関口の宇野と文化施設の集まる岡山市表町にも文化の花が咲き続き、人が集う街になるよう小さな福祉事業所である私たちもその一助となりたい。
UNO HOTEL アートディレクター 山田 茂
UNO HOTELの西側に、道路を挟んでJR宇野駅があります。
JR宇野駅は宇野みなと線の終着駅になり、駅を降りるとすぐ目の前には港があり、多島海の美しい景色が広がります。この港は宇野港という名で、かつて宇野と高松を結ぶフェリー航路があり、四国の玄関口として発展してきた歴史がありました。今現在の宇野港は瀬戸大橋の開通により、宇野と高松を結ぶフェリー航路は無くなってしまいましたが、その代わりに海外の豪華客船が停泊し、アートで有名な直島や豊島・小豆島のフェリーが発着する港として、再び日本国内に限らず、世界中から旅行者が訪れる港となっています。この宇野港一帯には、当ホテルの他にも温泉やアーティストの共同アトリエ、ギャラリー、グランピング、カフェ、ショッピングモールなどの施設や大小の商店が点在し、港から見える直島では現代アートが楽しめる環境があります。この一帯は、狭い地域に様々なものが混在した他の地域には見られない多様性があります。その様なところでHUB Lab.AIRを開催できたことは、地域性を生かした取り組みとして大きな第一歩と言えます。宇野という場所に、外から来たアーティストが滞在し、何を感じ、何を思い、どの様な作品を作るのか、個人的にもとても興味がありました。今回のHUB Lab.AIRには24名の応募があり、その中から厳選な審査をし、身体系のアーティストとして、北村成美さん、古関すま子さん、そして造形系のアーティストとして、小野サボ子さん、大平由香理さん、YOKO ICHIKAWAさんの５名の方にアーティスト・イン・レジデンスをして頂きました。皆さんそれぞれ滞在地である宇野のリサーチの仕方は様々で、瀬戸内の光や波の動き、流れる時間だったり、または歴史や風土をリサーチして独自の視点で考察したり、様々な角度で瀬戸内から感じたものをキャッチして作品を作って頂きました。また岡山の表町では、ありがとうファームの皆さんと交流し、商店街でワークショップを開催することで生まれた地域との繋がりなど、多くの発見や気づきがありました。手探りで始めたHUB Lab.AIRは、まだまだ課題もありますが、今後も引き続き、多くの魅力的なアーティストと関わりながら、地域の価値を掘り起こし、それを外に向けて発信し続けたいと思います。
実行委員会 株式会社ありがとうファーム 宇野港土地株式会社
助成 公益財団法人 橋本財団
